インタビュー

株式会社エイコー食品

自然の力を借りながら、本当に身体に良い、誰もがおいしく食べられる納豆を作り続ける現代の納豆屋。

苦手な人ほど、食べてほしい。迷いながらもたどり着いた「身体にしゅんでくる」納豆にこめる、大阪の納豆屋としての誇りと自信。

佐藤 光晴株式会社エイコー食品
取締役会長

「納豆屋」だった父の姿を見て育ち、自身が幼い頃に抱いていた納豆に対するネガティブなイメージを払拭できるような納豆を作りたいと日々奮闘する。「身体にしゅんで(染みて)くるような納豆」を目指し、愚直に研究を重ねている。

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はじめに

「関西では納豆を食べない」。そんな話を耳にしたことがある人も多いのではないだろうか。さすがに令和にもなった現代、「食べない」ということはないだろうけれど、実際に今も納豆の消費量は関西よりも関東のほうが多いのだという。「大阪・門真市」と「納豆」。このふたつのキーワードが並ぶとき、一体どんなお話が聞けるのだろう。ほのかに甘い大豆の匂いが満ちている工場見学を経て、株式会社エイコー食品さんにお邪魔した。

ものづくり
タウンかどま

ちょうどパック詰めをしているところを見学させていただけてよかったです。大豆の良い匂いがしていましたね。

佐藤会長

ありがとうございます。発酵の具合によって、また匂いも変わってくるんですよ。

ものづくり
タウンかどま

佐藤会長はなぜ、大阪で納豆作りをしようと思われたんですか? 食文化として、関西は納豆にはあまり馴染みがないのではというイメージがあるのですが。

佐藤会長

私が物心ついた頃から父は納豆作りに携わっていたんですが、私も当時は「大阪で納豆屋というと格好悪い」という意識が少しだけありました。でも、それってどうしてなのか改めて考えてみると、「臭い」とか「腐った食べ物というイメージ」とか、案外理由ははっきりしているのかもしれないと思ったんです。そこを払拭して、「俺は納豆食わんで」という人にも食べてもらえる納豆を作ってみたい。そんな思いもあって、「納豆で挑戦したい」と、チャレンジを続けています。

ものづくり
タウンかどま

エイコー食品さんの納豆は、具体的にはどのような点に特徴があるんですか?

佐藤会長

まずは、「におい」に特徴があります。納豆は発酵食品なので、蓋を開けたときに独自のにおいがしますよね。好む方にとっては良い匂いですが、苦手な方にとっては「臭い」と感じてしまう原因になっています。だけど本当は、納豆は上手に発酵させると「うまみ」のほのかに甘い良い匂いがするんです。雑味なくすっきりとした納豆を作ると、そうしたほのかな発酵臭がする。私たちは、それだけを残した「臭くない納豆」を作るようにしています。

ものづくり
タウンかどま

見学させていただいた工場もほのかな甘い匂いがしていましたが、あれは「うまみ」の匂いだったんですね。他にはどのような特徴がありますか?

佐藤会長

あとは、「食感」にも特徴があります。市場に出ている納豆を食べてもわかるように、納豆は「やわらかい=おいしい」というのが一般的なように感じますけれど、私は個人的に「ちょっと物足らんなぁ」と思ってたんです。大豆って本来、大豆そのものが持っている心地よい食感を楽しんでもらえる食材だと思うんです。だから、私たちのところでは、大豆の歯応えが程よく残る煮加減にこだわりをもって作っています。

ものづくり
タウンかどま

言われてみると確かに、ぐにゅっとした柔らかな市販品は多いような気がします。苦手な人にとっては、あのやわらかさがより一層「腐った食べ物」というイメージに繋がってしまうといった可能性もあるのかもしれませんね。

佐藤会長

はい。大豆そのものの素材の味もしっかりと味わって、「あぁ美味しいな」と噛み締められる納豆を目指しています。ちなみに、納豆の食べ方として、粘りが好きな方はよく混ぜてからタレを入れるのがおすすめで、粘りが苦手な方は先にタレを入れると粘りが軽減されるので、そうした方法も知っていただけるとよりお好みに合わせやすくなるかもしれません。

実は関西にもあった「納豆文化」

佐藤会長

ちなみに、先ほど関西には納豆文化が無いのではと仰っていただきましたが、実は関西にも食文化としての納豆はあったそうなんですよ。

ものづくり
タウンかどま

えっ! そうなんですか?

佐藤会長

私も大学の先生に教えていただいた話なんですが、千利休の時代には、関西でもお茶請けなどとして使われたり、大衆の食文化に納豆は普通にあったらしいんです。けれど、作り手の数が減ってしまって、だんだん文化として廃れていってしまったと聞きました。

ものづくり
タウンかどま

そうだったんですね。かつては親しまれていたものが、時代の変化と共に疎遠になって、今ではネガティブなイメージさえつくようになってしまったと。

佐藤会長

そうした話も聞く中で、やっぱり、納豆についてしまったネガティブなイメージは変えられたらいいのにとも感じるんです。私の家は決して裕福ではなかったけれど、父は納豆を作りながら愛情もたっぷり注いでくれて、私に貧乏を感じさせたことなんて一度もありませんでした。そんな父がやっていた仕事に「格好悪い」とか「恥ずかしい」なんて感じるのはおかしい話だなぁと今では思いますし、「お父さん、僕納豆屋やりたいねん」と息子に言ってもらえるような、そんな納豆屋になりたいなと思います。

ものづくり
タウンかどま

確かに、納豆自体の印象も変われば、納豆作りの担い手だって増えていくのかもしれませんね。

佐藤会長

はい。納豆屋さんって格好良いよねというような文化をつくりたいという思いは、今もずっと根底にあります。

納豆作りの一番の魅力は「ドキドキする」こと

ものづくり
タウンかどま

子どもの頃を含めると、正直初めはあまり良い印象がなかったところからの納豆作りのスタートだったと思うのですが、今感じる「納豆作りの面白み」というのはありますか?

佐藤会長

うーん……そうですね。心配っちゅうのかな。何というか、ドキドキするんですよ、納豆作りって。

ものづくり
タウンかどま

ドキドキする、ですか。

佐藤会長

そう。納豆作りは、「全部」が繋がってくるんです。例えばおいしい納豆ができた時に「一体何が良かったんかな」と思ったら、煮上がり、納豆菌の濃度、豆洗い、大豆選び……と全部が繋がっていて、「どれかひとつが上手くいったからおいしい納豆ができる」というわけじゃないんやってことに気づくんです。だから毎回毎回、すごくドキドキするんですよ。

ものづくり
タウンかどま

ずっと作り続けられていても、今でもドキドキするんですか?

佐藤会長

はい。納豆って、発酵室に入れちゃうともう見えないんですよ。見えるのは部屋の温度と納豆菌の温度だけ。目に見えない納豆菌の声を聞いて、納豆が「あっためて」と言ってる時は温かくしないといけないし、「暑いで!」って時は冷やさないといけない。工場で完成して、運ばれて、陳列されて、お客様の手元に渡ったその時にベストのおいしさを達成できるように発酵させないといけないんです。それってすごく難しいし、すごく面白い。だから何回やっても毎回ドキドキしています。

ものづくり
タウンかどま

なるほど。お店に並んで、お客様の手元に渡るその時のことまで考えて発酵させていくというのは目から鱗でした。

佐藤会長

もちろん商品なので、一定の品質を保つというのはあります。「エイコー食品の納豆はこの味」というものを毎回ご提供するというのは当然のことですが、それ以上の部分での微妙な違いというのが、毎回本当に面白いんです。上手くいったなと思った時、それを同じように再現しても、どこか不足に思うんですよ。「ここ、もっとおいしくなるんちゃうの?」って(笑)。
納豆のことをもっと見て、もっと声を聞いてやれば、もっともっとおいしくなる。声を聞いてその通りに世話すれば、納豆菌もちゃんと応えてくれる。それがうまくいくと楽しいし嬉しいし、予想と違う味になることもあって、本当に終わりがない。納豆作りって、どこまでも追いつかへんのやろなぁと思いますね。

「身体にしゅんでくる」至極の納豆へ

ものづくり
タウンかどま

本当に納豆作りを愛していらっしゃるんだなぁと感じるのですが、それでも嫌になってしまうことってありますか?

佐藤会長

割に合わんなぁとか、なんでこんなことなるねん、っていうようなことはしょっちゅうあります(笑)。納豆作りは納豆菌という「自然の力」を借りなければできないことなので、人間の理屈通りにはいきません。でも、どこに原因があったのか考えていく中で「あ、あそこやったんか!」って気がついて、実際にやってみてドンピシャでハマると本当に気持ちが良いですし、嫌になるっちゃ嫌になるけど、やっぱり、結局は好きなんやろなぁと思いますね。

ものづくり
タウンかどま

究極のトライアンドエラーという感じがしますね。人の手によるものづくりではあるけれど、人間の理屈通りにいくわけではないと。

佐藤会長

そんな中で私よりもおいしい納豆を作る方というのを見ると、正直に言って逃げたくなる時もあります。そういう方は私よりももっと努力しているんだろうなと思いますし、あまりに途方もなくて、納豆そのものから逃げ出したくもなる。でもやっぱりやめられないし、どうしても「可能性がある」と思えてしまうんです。
最近は色んなことを考えすぎていたなと気づいて、「本当に自分が作りたいものは何か?」と考えるようになりました。それで、ほんまに身体に良いもの、身体が反応するもの、「身体にしゅんでくるもの」を作りたいなということに行き着きました。

ものづくり
タウンかどま

「しゅんでくる」というと、「身体に染み込んでくる」ということですか?

佐藤会長

そうです。「食べた瞬間に身体が受け入れてくれるもの」を目指そうと思っています。もちろん、心のどこかには「やるからには誰にも負けたくない」という気持ちもありますが、「ほんまにそれって私が求めるものかな?」と思うようになったんです。私が本当に作らなあかん納豆って何やろうとじっくり考えたら、例えば納豆が苦手な人からも「こういうの食べたかってん!」と言ってもらえるような、そんな納豆じゃないのかなと思うようになりました。

ものづくり
タウンかどま

素敵ですね。納豆はシンプルな食材で作られるからこそ、「身体にしゅんでくる」にこだわることもまた、究極の味を追求することになるのかもしれないと感じます。

10年後、居場所と存在意義のある会社を目指して

ものづくり
タウンかどま

これから先、挑戦していきたいことについて教えていただけますか?

佐藤会長

私はとにかく、これまで本当に「人」に恵まれてきてここまできました。だからこそ、仕事や人生の中でできる限りたくさんの「つなげる」ということを大切にしていきたいと思っています。恩返しももちろん大切ですけれど、返しきれない御恩は次の方にという「恩送り」という考え方です。

ものづくり
タウンかどま

恩送り、ですか?

佐藤会長

はい。仕事だけでなく、人生についても色々と学ばせて頂いている方に教えて頂いたことで、仕事に限らず人生において大切にしている考え方です。人と人をつなげたり、ご縁をつなげたり、私に関わってくださる方々をおつなぎすることで、良い循環を作ることができたらと思っています。
もちろん納豆というものの可能性を広げて、未来につなげることにも挑戦したいです。価格帯、味、できあがるまでのストーリーと、「納豆」ひとつにしても求めるものは人によって違ってきます。私たちが「これを届けたい」と思うものばかりではなく、お客様の視点も大事にして、良いものを、求められる形で、いろんな方に食べてもらいたいというのが根本の部分です。ですので、納豆をもっといろいろな形で活用していただけるようなコラボレーションなども、お声がけいただければ応えていきたいと考えています。

ものづくり
タウンかどま

10年後の目標といったものはあったりするんでしょうか。

佐藤会長

ちゃんとした居場所といいますか……存在意義がある会社になりたいとは考えています。もしも明日から商品が供給できないとなった時に、「エイコー食品の納豆がなくなると困るねん」と言っていただけるような会社です。社員さんが「どこで働いているの?」と聞かれたときに、「あ、あの納豆作ってるところ?」と言ってもらえるような会社。良いものを作って、きちんと認められている状態にしたいですね。

ものづくり
タウンかどま

商品のファンが増えることは、社員さんにとっても嬉しいことですもんね。

佐藤会長

そうですね。そうやってきちんと売上や利益を確保していくことは、社員のみなさんへの恩返しにつながるとも考えています。いつも真摯に納豆作りと向き合って、私の至らないところを補うようにちゃきちゃき働いてくれている社員のみなさんに何が返せるかと考えたら、やっぱり時間とお金です。社員さんと社員さんのご家族がみんな幸せになれるように、会社としても個人としてもしっかりと恩を返せるようになっていたいですね。

ものづくり
タウンかどま

佐藤会長ご自身は、10年後も納豆作りを続けられていると思いますか?

佐藤会長

10年後となると67歳ですね。多分まだ、今と変わらずに「ここはもうちょっとこうなるんじゃないか?」と頭をひねって納豆作りをしているんじゃないでしょうか(笑)。会社経営は引き継ぐことになっているかもしれませんが、納豆作りは本当に「やりたい」と思わないと続けられないことだと痛感しているので、誰にも無理強いするつもりはありません。格好良い納豆屋になって、「この会社を継ぎたい」と心から思ってもらえるように、日々精進するのみです。

ものづくり
タウンかどま

粘り強く、奥深く、情熱ある納豆作りについて聞かせていただいてありがとうございました。エイコー食品さんの「身体にしゅんでくる納豆」、味わうのを楽しみにしています。

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