インタビュー

北次株式会社

はじめてのものづくりから、特殊なシーンのものづくりまで。「布もの」で実現できることに挑戦し続ける縫製工場。

さまざまな「つくりたい」に寄り添う、機械にはできないものづくりを続ける布もの工房。

北次 孝得北次株式会社
代表取締役

縫製業一筋に生きる、布もの工房の三代目。個人・法人を問わず、「つくりたい」という気持ちに寄り添い、どうすれば実現できるのかを共に考えるプロフェッショナル。はじめてのものづくりも応援すると共に、自らも会社として「はじめて」の挑戦を続けるように心がけている。

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はじめに

まるでおとぎ話に出てくる、森の中の可愛いお家。そんな印象を抱くあたたかな雰囲気の事務所には、トートバッグやぬいぐるみ、ランチョンマットなどのさまざまな「布もの」製品が並べられている。
ミシンの音が絶え間なく響く工場の心地よい余韻とともに、さまざまな相談を受け、小ロットの制作からも請け負うという「布もの工房」こと北次株式会社様がおこなうものづくりについてうかがっていく。

ものづくりタウンかどま

布もの製品はあたたかみを感じて良いですね。北次株式会社様は、布もの製品だけを作られているのでしょうか?

北次代表

はい。昨年65周年を迎えた弊社は、布雑貨専門の製造をおこなっています。作るものはさまざまで、トートバッグやランチョンマット、ぬいぐるみや人形の服といった身近なものから、医療用の服に使用するポケットや、障がいのある方が使う吸引器用のバッグ等も作っています。ほかにも、自社オリジナルの製品を作って販売もしています。

ものづくりタウンかどま

自社オリジナルの製品というと、例えばどんなものがあるんですか?

北次代表

マスクなども販売していますが、少し前にはクラウドファンディングを活用して、アウトドアギアとして使うことができる「テント型フードカバー」も販売しました。オリジナルブランドとして「nunocamp」という名前をつけて、今後もシリーズとして展開していきたいなと思っています。

怖さを乗り越え、挑戦する心を大切に

ものづくりタウンかどま

色々なジャンルの「布もの」を作られてきたかと思いますが、これまでに印象深く記憶に残っているお仕事はありますか?

北次代表

3.11の東日本大震災が起こった後、「原発の施設の中を撮影するカメラを保護するためのカバーを作ってほしい」というご依頼をいただいたことがありました。もちろんこれまでに作ったことのない製品でしたし、依頼内容も特殊だったので、2mくらいの布を鉛筆のような形に縫い上げていって、試行錯誤しながらなんとか形にすることができたお仕事でした。

ものづくりタウンかどま

なるほど……布もの製品はそういったシーンでも活用されるんですね。初めて作る製品だったということですが、不安はありませんでしたか?

北次代表

その時のご依頼に限らず、これまでに携わったことのない分野からのご依頼だと、やはり「怖さ」を感じることはあります。大丈夫だろうかとか、どうやって作るのがいいんだろうかとか、正直に言って不安に思ってしまうことはありますね。でも、そうした挑戦を続けていくことはとても重要なことだと考えているので、「やったことがない仕事」にはどんどんチャレンジするのが良いと考えています。自社オリジナルの製品開発も、最初に作り始めたのは先代社長のそうしたチャレンジのひとつだったんじゃないかと思います。

「人の手で作り続けていく」ための工夫と失敗哲学

ものづくりタウンかどま

「新しい挑戦を続けていく」というのは、大変なことも多いのではないかと思うのですがいかがでしょうか。

北次代表

そうですね。もちろん、挑戦すればするほど失敗することも多くなります。ただ、私は「挑戦しているからこそ失敗がある」と考えているので、挑戦ありきの失敗は仕方がないかなと捉えている部分もあるんです……まぁ、本当はトラブルが起こらない方がいいんでしょうが(笑)。
縫製業というのは複雑な仕事なので、多少のトラブルは仕方がない部分もあるのかなと受け入れています。

ものづくりタウンかどま

挑戦しているからこそ失敗がある、ですか。素敵な考え方ですね。

北次代表

ありがとうございます。作り慣れているものだけをずっと作り続けるのなら、きっと失敗はしないと思います。けれどそれだと業界の浮き沈みに大きく影響されてしまい継続性もありませんし、発展がありません。
縫製業界は中国などの諸外国に生産拠点が多く移っていることもあり、人件費や工場の規模感・コスト等を鑑みても、それぞれの棲み分けをしていくことは重要なのではないかと感じています。そんな中で、小ロットから制作を請け負い、お客様のはじめての「ものづくり」にも寄り添って一緒に実現を考えていく私たちの強みを活かして作り続けていくためにも、さまざまな挑戦を積極的に続ける姿勢は大切にしていきたいと思っています。

機械化できない「布もの」の複雑さ

ものづくりタウンかどま

縫製業の複雑さというのはどの辺りにあるんでしょうか?

北次代表

縫製の仕事は本当に千差万別なんです。同じ帆布のバッグであっても裏地あり、裏地なしといった違いから、布地の厚み、硬さ、大きさ、柄や素材の微妙な違いなどをすべて見分けて、それぞれを使い分けて作っていく必要があります。ほとんどの工場だと、紳士服のジャケットのみを作るとか、特定の物だけを作っていることが多いのですが、弊社はさまざまな商品を扱うため、さらに複雑性は増しています。

ものづくりタウンかどま

そう言われると、確かに複雑で大変なお仕事ですね……。

北次代表

そうなんです。同じ生地でもロールの巻き方が違って裏表が逆になっていたり、瞬間瞬間に見極めなければならないことが結構多いんですよ。あとは、完成品の検品に関しても、布ものの場合は「数字だけで可否を判断できない」という特徴があります。

ものづくりタウンかどま

「数字だけで可否を判断できない」ですか? どういうことでしょう。

北次代表

布ものは、例えば数字通りにきっちり仕上がっていたとしても、人間の目から見ると違和感があったり、「美しくない」という仕上がりになってしまうことがあるんです。逆に数字通りではなかったとしても、人間の目で見ると問題はないということもあります。似たような形のものであったとしても、ひとつひとつに「正解」が異なっているんです。

ものづくりタウンかどま

面白いお話ですね。確かに、普段から使う身近な品物が多いからこそ、何が大切なのかと考えると結局は「身に付けたり、日常的に使う人たちにとっての良し悪し」であって、「数字的に正しいかどうか」という部分ではないのかもしれません。

北次代表

私は機械には詳しくないですが、そうした点も含めて、日々工場でミシンを踏んでくださる職人さんたちの仕事っぷりを見ていると、全てを機械化するというのはなかなか難しいんじゃないのかなと感じています。
人の手だからこそできる仕事というものを大切に、布ものを作り続けていくための工夫として、私たちはどんなに小さく単純なお品物のご依頼だったとしても必ずヒアリングをして仕様書を作り、「先上げ」という見本品を用意して、齟齬がないか確認しあいながら仕事を進めるようにしています。

ものづくりタウンかどま

小ロットから対応されているとのことでしたが、例えば50個の製造だったとしてもその工程を踏まれているんですか?

北次代表

はい。そのご依頼をくださった方が、三年後四年後に「また同じものを作りたい」と思った時にも、仕様書を作っておけばすぐに対応させていただくことができますから。

手から手へと繋いでいく「リレー」から生まれる価値を次の世代へ

ものづくりタウンかどま

創業65周年を迎えられたとのことですが、これから先挑戦したいことや、守り続けていきたいことはありますか?

北次代表

やはり、新しい人たちに入ってきてもらうことは、業界としても組織としても持続していくために挑戦すべきことだと思います。弊社としても、インターン生の受け入れをおこなうようにしたり、卒業制作のお手伝いを積極的にさせていただくようにしたりと、次の世代の方々との接点を増やしつつあるところです。
これからの時代は人口が減って、人々の好みが細分化していく中で、やはり業界としても今まで通りではいかないと思っています。だからこそ、ものづくりが好きでありながらも、「面白いことをやっていこう」「面白いものを作っていこう」という柔軟な発想のある人を迎えられる環境をつくることが大切ではないかと感じます。

ものづくりタウンかどま

北次様が思う、この仕事の楽しさというのはどのような点でしょうか。

北次代表

私はミシンを踏みませんが、職人の方にお話を聞くとみなさん「理屈じゃなく、とにかくミシンを踏むことが好きで楽しい」と教えてくださいます。布ものは、一枚の布からたくさんの物を生み出すことができますし、最初の状態から最後まで作ることができるというのも魅力のひとつかもしれません。最近は個人のお客様からのご依頼も増えたんですが、やっぱりものづくりが好きな方というのはこだわりや熱意がすごいんです。お話を聞く中で、私たちの方がパワーをもらうことも多いんですよ。

ものづくりタウンかどま

理屈じゃない「好き」「楽しい」という気持ちほど、強いものはないのかもしれませんね。

北次代表

はい。よく「一点もの」というと価値が高く、「量産品」というと価値が低いようにイメージされてしまうかと思うのですが、私はむしろ、弊社で請け負うような量産品はとても価値が高いと思うんです。一人の職人の手で完結するよりも、大勢の人間が関わらなければ完成しない商品というのはそれだけ複雑だし、トラブルも起こりやすいし、失敗をリカバリーするための仕組みや工夫も必要になってきます。
そうした多くの努力や熱意が加わって、人の手から手へとリレーを繋いでいくようにして作られていくものづくりの価値というものを、私たちは信じていたいし、次の世代にも繋いでいけたらと思っています。

ものづくりタウンかどま

なるほど。そうした先にはどのような未来があるんでしょうか?

北次代表

ある程度効率的に、それでもお客様の持つこだわりをしっかりと取り入れたものづくりをしていくことができれば、きっともっと多様な個性あるものが増える社会になるのではないかと思っています。自社のオリジナル商品も含め、職人さんにとっても誇りになるような個性ある商品づくりを続けながら、目の前のお客様にコツコツと向き合い、100年続けていける会社になりたいですね。こうしてお話している間にもミシンを踏んでくださっている職人さんあっての会社ですので、仕事としても勤め先としても「長年続けたいと思ってもらえる会社」を目指せたらと思います。

ものづくりタウンかどま

小ロットやはじめてのものづくりからもご相談に乗っていただけるという特色も含め、北次様のような存在は「ものづくりの第一歩」を踏み出したい方にとても心強い存在なのではと感じました。
お忙しい中、貴重なお話をありがとうございました。何か作りたいものができたらすぐにご相談させていただきます!(笑)

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