インタビュー

栗原木工株式会社

日本の文化である「造作家具」にこだわり、空間の価値を最大化させるための木工を続けるものづくり企業。

「造作家具」で、空間価値を最大化する木工所。“働き続けたくなる”ものづくり企業の仕組みとは。

栗原 啓大栗原木工株式会社
代表取締役社長

空間にぴったりと寄り添い、暮らしに根ざす。そんな日本古来の「造作家具」の文化や大工の手仕事に誇りを持ち、敬意を払い、「最初から最後まで」の一気通貫を大切にしながら空間や木に向き合うプロフェッショナル。

栗原 香織栗原木工株式会社
代表取締役専務

「社員が家族や友達を大切にすることができる、働きやすい会社でありたい」という信念を持ち、父の代から続く栗原木工株式会社を支える。また、自身もオーダー家具設計士・一級建築士として空間のアップデートにも寄り添っている。

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はじめに

こんな街中に木工所があるんだろうか。半信半疑になりながら門真市内を進むと、お稲荷さんの赤い鳥居を傍らに構えた「栗原木工」の玄関口が見えてくる。三階建の工場は、一階が機械を使った部品作り、二階が職人による製造、三階が仕上げの塗装、屋上が駐車場として活用されていた。物腰柔らかで真摯な代表取締役の啓大さんと、明るく好奇心とチャレンジ心に満ちる専務の香織さん。ご夫婦のみならず、幼馴染にあたる職人さんも一緒に働いているという栗原木工の、伝統と革新をあわせた「造作家具」作りに迫った。

日本はかつて、すべてが「一点もの」の造作家具だった

ものづくり
タウンかどま

一階、二階の木の香りと、三階の塗料の香り。「ものづくり」の香りが満ちていて素敵ですね。栗原木工さんは「造作家具(ぞうさくかぐ)」を主軸にされているとうかがったのですが、もう少し詳しく教えていただけますか?

栗原啓大社長
(以下、
啓大さん)

私たちは、「その場所にぴったりとあったもの」を「造作家具」の概念としてとらえています。壁から壁、床から天井という空間にぴったりと合う、いわゆる一点もの家具のことです。この「ぴったりと合う」という言葉の中には、大きさはもちろんですが、材質や色合いといったことも含んでいます。木の中にもいろいろな種類があり、それぞれに特徴も色味も異なってきますよね。「その空間そのものに、あらゆる意味合いでぴったりと合う」ものを、私たちは「造作家具」と呼んでいます。

ものづくり
タウンかどま

なるほど。あまり聞き慣れない言葉かなとも思ったのですが、建築業界では一般的な名称なのでしょうか。

啓大さん

うーん、そうですね。実は日本では、明治時代から「大工」の細分化が始まったといわれています。

ものづくり
タウンかどま

大工の細分化、ですか?

啓大さん

はい。それまでは家を建てるのも、家具を作るのも、船を作るのも、全部「大工」の仕事でした。けれど明治時代辺りから、「船大工」「家大工」といった役割分担が生まれて細分化が始まりました。「造作大工」という仕事も、その辺りから生まれたものだと聞いています。本来、日本の家具はすべて大工さんがその家々に合わせて作る一点ものの「造作家具」だったんですよ。

ものづくり
タウンかどま

全く知りませんでした……! でも、確かに言われてみれば昔は家具も「作るもの」が基本だったはずですよね。

啓大さん

そうなんですよ。日本の良い文化のひとつに「長く手入れをして物を大切にする」というものがあると思いますが、それもそうした「家にぴったりと合うもの」をそれぞれが持っていたからなのかもしれません。私はそういう日本人の心がすごく好きなんです。

「一気通貫」で作り上げ続けるための、機械と職人の共存方法

ものづくり
タウンかどま

造作家具を作る栗原木工さんならではの特徴はありますか?

啓大さん

見ていただいた通り、弊社では部品の製造から塗装までを一気通貫しておこなうことができるようになっています。木工所で「塗装」という仕上げの部分までを自社でおこなえるところは意外と少ないんです。

啓大さん

理由としては、設備的なこともあるとは思いますが、大部分としてはやはり「塗装の技術と木工の技術は異なる」という部分が大きいと思います。私たちは、自分たちが手掛ける造作家具の一番重要な仕上げとなる「塗装」まで自分たちが責任をもっておこないたいと考え、塗装専門の職人も雇い、すべてを自社で完結できるようにしています。

栗原香織専務
(以下、
香織さん)

木の種類によって、塗料を塗った時の色の出方や風合いも変わります。加工や製造から塗装まですべてを社内でおこなうことで、「こんな感じになりますよ」といったお見本を見せることもできたり、微調整もしやすくなるというところはお客様にも喜んでいただける部分かもしれません。

ものづくり
タウンかどま

「ここに置くこういうものが欲しい」という要望をゼロから一緒に作り上げていく「造作家具」だからこそ、イメージを具体的にすり合わせていくのはとても重要なポイントですよね。

香織さん

そうですね。途中で一度塗装をして、仕上げにもう一度塗装を施すということもあるので、やっぱり社内で完結できるというのはお客様の安心感としても、仕上がりまでのスピードとしても大切なことかなと思います。

ものづくり
タウンかどま

工場を見学させていただいた中で、機械化と手仕事のバランスが絶妙だなと感じたのですが、その辺りにもこだわりはありますか?

啓大さん

私たちは「空間にぴったりと合う」造作家具に特化した工場なので、搬入と設置までをおこなうのが基本になります。たとえば東京のオフィスに設置するものだった場合、搬入時には分割して持っていかなければなりません。機械で正確に分割し、それを現場に持っていって継ぎ目のない状態でぴったりと設置するのは人間の手仕事でおこなう。そのような役割分担のバランス感は意識しています。

香織さん

機械を使うのは、あくまでも職人さんや社員さんたちの仕事の完成度や効率を上げるためなんです。ものづくりは物を作って納品しなければならないということもあって、時には深夜や早朝、休日まで仕事をしなくてはならない過酷な仕事だと長年いわれてきました。けれど、部分的に機械を導入することで、熟練の技を持つ職人さんたちはその腕を発揮するところにもっと効率的に時間を注ぐことができますし、全体としての作業効率も上がります。
たとえばベニヤ板一枚から部品を切り出す時にも、機械に読み取ってもらって「一番無駄なくベニヤ板を使えるレイアウト」を瞬時に算出し、切り出してもらうことができる。適切な部分にコンピュータや機械を導入したことで材料の無駄も減り、さらには社員さんが怪我をしてしまうことも減りました。

ものづくり
タウンかどま

素晴らしい改革ですね。いわゆる「3K」と呼ばれるような製造業のイメージも変わる気がします。

香織さん

そうですね。そこは私たちも変えていきたいなぁと考えているところです。休日はしっかり休めて、家族や友達も大切にできて、ここで働くことでみんなが幸せになれるような会社を目指したいんですよね。

目指すのは「脱3K」。女性も若者も熟練の職人も、働き続けることができる持続可能な会社へ。

ものづくり
タウンかどま

そうした効率化も含めて、「家族や友達も大切にできる会社」を目指そうと思うようになったのは何かきっかけがあったんでしょうか?

香織さん

社員の若い子がふと、「ここで働いていると友達と疎遠になる」というようなことを言ったことがあったんです。聞いてみたら、遊ぶ予定があったのに繁忙期の仕事のせいで断り続けることになってしまった……というような話で。それはよくない! と思って、変えていかないとと思うようになりました。

啓大さん

やっぱり製造業というのは「きつい・汚い・危険」の「3K」というイメージがあるようで、若い人がなかなか働きたいと思ってくれないというのを肌で感じることもあります。最近では同じものづくりでもデザインやインテリアに関心を持つ人が多い印象もありますが、少しずつではあるものの「家具を作りたい」という女性が増えてきたり、変化はあるんです。弊社でもリフレッシュ休暇の制度を設けたり、「できるだけ育児休暇はとってほしい」と言うようにしていたりもします。子どもが小さい時間というのは貴重ですし、夫婦関係も家族関係も大切にしてほしいと思いますから。実際、男性社員が育児休暇をとって「初めて奥さんの大変さがわかりました」と言っていたこともありましたよ。

ものづくり
タウンかどま

正直、「製造業でリフレッシュ休暇や育児休暇」と聞いて驚いた自分がいます。でも、本当にすごく大切だし、これからはもっと重要になっていきますよね。

啓大さん

はい。今年は新卒で女性の職人さんも入社してくれることになったんですが、そうした面も含めて、長く安心して働けるための環境改善というのはどんどん進めていきたいと考えています。

ものづくり
タウンかどま

機械化することで、女性でも働きやすくなる一面もありそうですね。ちなみに職人として見た時に、男女で何か違いというのはあったりするんですか?

香織さん

そうですね……男性は日常的な動作からすべて「職人」として生きているなぁと感じることが多くて。すごく緻密で、生活の中でも几帳面だなぁと思うことが多いです(笑)。

啓大さん

髪の毛一本の隙間を埋める仕事をしていますからね。

香織さん

うんうん。女性は日常的な生活の中だと結構大雑把なところもあると思うんですけど(笑)、職人さんとしてお仕事を任せると、やっぱり繊細さが際立つなぁと感じることは多いです。仕上げの時の角がピンと立つというか、凛と際立つ仕上がりになることが多いのかなぁと。

啓大さん

男女に限らず、職人ひとりひとりにも得意分野がありますので、それぞれの抱えている仕事や特徴、現場の状況を踏まえて、工場の責任者である製造長が仕事を采配してくれるのはとても助かっています。

ものづくり
タウンかどま

二階の職人さんたちはそれぞれのテーブルで作業をしているように見えましたが、全体を統括されている方がいらっしゃるんですね。

香織さん

はい。先代の頃からのやり方で、職人さんたちの中で「誰に・何を・いつ・どんな風に」任せるのかはすべて現場のリーダーである製造長に一任しているんです。私たちが口を出すよりも、その方がやりやすいのかなって。

啓大さん

「職人ひとりひとりが自分の頭で考えて仕事をおこなう」というのは大切なことなのかなと考えています。目の前のことに徹底的にこだわるのはもちろんですが、「全体の仕事の流れ」というものも意識しながら、より効率的に仕事を進めていくにはどうすればいいのかと考え続けることも重要です。
私は、大工という仕事は本当に素晴らしい、格好良いものだと思っています。自分たちの仕事に誇りを持って、「自分たちでより良い環境を作り出せる人」が増えれば、「3K」というイメージも変えていくことができるんじゃないかと思うんです。もちろん、まだまだ私たちも試行錯誤で、毎日「それって大丈夫か?」と心配になりながら、トライアンドエラーを繰り返しながらやりとりをしている最中ですが(笑)。

手の届く「空間価値の最大化」。造作家具の文化を、もっと多くの人の手に。

ものづくり
タウンかどま

これからも守っていきたい「造作家具」の木工所としてのこだわりや想いはありますか?

啓大さん

私たちが作るものは、工芸品や民芸品とは違います。あくまでも「暮らしのため」の、「日常の空間」にあるものを作るのが「造作家具」です。ゼロから作ると言うとなんとなく高価な物というイメージも持たれやすいのですが、実際は価格帯としても決して手の届かないものではありません。ほとんどの場合、設置したい空間やご希望の商品イメージなどをお聞きして、ご予算をうかがい、その中で可能な形を考え、「空間にぴったり合う」家具をご提案させていただいています。
昔の日本ではごく当たり前に、「空間の中に馴染む」家具がありました。家具があって「どこに置こうかな?」ではなく、空間があって、その中に家具が「おさまる」という感覚が当たり前にあったんです。けれど今では、そんなものが手に入るという発想さえ浮かばない方が多いのではないかと思うんです。選択肢を知らないから、とにかく手軽に買うことができる大量生産の家具を買ってしまう。便利ではありますが、だからこそ「長く使う」という発想にはなりづらく、大量廃棄にも繋がってしまうのかなと思います。家だけではなくオフィススペースや店舗に関しても、「思い入れを具現化する」ということが可能なのだということを多くの方に知っていただきたいです。

ものづくり
タウンかどま

確かに、オフィススペースなんかは特に「空間がいかに良いものであるか」ということが社員のモチベーションや仕事のパフォーマンスにも関わってくると聞きますよね。

啓大さん

そうですね。個人的には、私たちと同じくらいの規模の中小企業さんに対しては特にお力になれることが多いんじゃないかと考えています。空間を変える時、大工さんに頼むと相応の時間がかかりますよね。けれど造作家具なら、ぴったりと合う家具を設置するだけでそれを叶えることができます。棚と棚の間の何でもなかった空間に、ぴったりとフィットする家具が入ることで空間全体が引き締まったり、受付スペースにフィットするカウンターを置くことでオフィスの空気感が変わったり……。造作家具は、その空間に対して最も良い形・質感・性能をもつ家具です。空間の価値を瞬時に上げる力。その可能性や魅力を、もっと多くの人に身近に感じてもらいたい、知ってもらいたいと感じています。

香織さん

そのためにも、働く環境や制度設計は積極的に見直していきたいと思いますし、多くの人に身近に感じていただける価格設定を保つための適切な効率化も大切だと思います。親子二世代にわたって弊社で働いてくれている職人さんもいるんですが、そういう、「見ていて格好良いなと思える」「楽しそうだなと思える」「一緒に働いてみたいと思える」会社になっていきたいです。

啓大さん

弊社は木の家具を削り直して塗り直す「再生家具」ということもおこなっていたり、製造過程で出てしまう端材は冬場の薪ストーブの燃料として再利用していたりもします。自分たちにできる形で、「ものを大切にする」日本の文化の一端を担っていけたら嬉しいとも思いますね。

ものづくり
タウンかどま

貴重なお話、ありがとうございました。「造作家具」という選択肢が、日本に再び広がっていくことが楽しみです!

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